大石 朝陽
近年, 情報通信技術は急速な発展を遂げ, 現代社会において必要不可欠なものとなっている. 特に, イン ターネットの普及により膨大な量のデータが日々送受信されるようになり,セキュリティの重要性が一層増 している. データの機密性,完全性,可用性の保持において,暗号技術は欠かせない役割を果たしており,そ の中でもストリーム暗号は高速にデータを暗号化する手段として注目されている. ストリーム暗号の一つで あるSalsa20は, TLS1.3に選定されたChaChaの前身であり, その安全性解析は重要な課題となっている. Salsa20 は, bit 加算,巡回シフト及び排他的論理和のみを用いた暗号で, 解析手法では入力に差分を加える 差分解析と線形近似式を利用する線形解析がよく知られている. また,近年では差分解析と線形解析を組み 合わせた差分線形解析と呼ばれる解析手法が提案されている. 差分線形解析では,解析の計算量の評価に線 形近似式のバイアスである線形バイアスの理論値を評価に用いる. このため,差分線形解析では,実験値を 詳細に反映する線形バイアスの理論値の導出が重要である. Salsa20に対する識別攻撃で最も強力な結果は Contiho らによって提案されており, 8ラウンドのSalsa20が2<sup>215.62</sup>の計算量で攻撃が可能であることが示 されている. この識別攻撃は5ラウンドの差分解析と6-8ラウンドの線形解析で構成され,6-8ラウンドの 線形近似式の線形バイアスが2<sup>−34</sup>であることが証明されている. ここで6-8ラウンドの線形近似式は4 つの部分線形式から構成されるが,4つの部分線形式のうち3つの式の理論値は実験値との差がかなり大き く, 最も大きいもので|(理論値-実験値)/理論値|が3.028となることが報告されている. しかしながら,その 理由についてはこれまでわかっていなかった. 本研究では,該当の線形近似式を改良し,より詳細に実験値 を反映する理論値を新たに提案する. 我々の導出した理論値を用いると, |(理論値-実験値)/理論値|が3.028 から0.057となり. 実験値をより厳密に近似していることがわかる.